社内SE(システムエンジニア)という職種は、IT業界だけでなく多くの企業で見られるポジションです。
この仕事には多様な業務があり、それに応じて多種多様なスキルが求められる。
一見、多忙かつ厳しい環境に見えるかもしれませんが、実は社内SEは「勝ち組」とも評されることが少なくありません。

何故そう言われるのか、その理由は多様な業務内容と比較的高い収入にあります。
一方で、逃げ道が少なく、スキルの偏りが生じやすいというデメリットも。
このような矛盾した側面を持つ社内SEには、どのようなスキルが必要なのでしょうか?
この記事では、私の社内SE歴15年以上の経験をもとに、社内SEの多様な業務とスキル、そしてそのメリットとデメリットを詳しく解説します。

さらに、社内SEに求められる多角的なコミュニケーション能力や専門知識についても触れ、社内SEに転職するための具体的な戦略を提案します。
新卒者からキャリア採用者まで、社内SEを目指すすべての人にとって参考になればうれしいです。
社内SEとは:安定している反面、多様な業務とスキルが求められる職種

社内SEに詳しくない方のために、社内SEの定義、業務の特徴、必要なスキルセットについて順番に解説します。
社内SEとは
「社内SE」と一言で言っても、その業務内容は多種多様。
会社の規模や業界、そしてプロジェクトの内容によって、求められるスキルや担当する業務は大きく異なります。
共通的に言えることは、企業に所属してその企業のシステムに関する業務全般を担います。
ひとつの企業の専属であることの安定性、業務全般を担う多様性が、社内SEの特徴。
これらの特徴が、社内SEをとても魅力的な職種にし、同時にこれが「勝ち組」と呼ばれる理由でもあります。
会社の規模による社内SEの業務の違い
会社の規模によって、社内SEの業務範囲は大きく変わります。
例えば、スタートアップ企業では一人の社内SEがシステム開発から運用、さらにはIT戦略の立案までを行うことも少なくありません。
いわゆる「ひとり情シス」、何でも屋さんです。

一方、大手企業では社内SEを数百人規模で抱えることもある。
大手企業の場合は、社内SEそれぞれが専門的な業務に特化する傾向が高く、ひとり情シスとは正反対の特徴となります。
社内SEに求められるスキルセット

社内SEに求められるスキルは多岐にわたります。
企業内のITインフラを構築・運用するだけでなく、ビジネスサイドとエンジニアリングサイドのコミュニケーションを円滑にする役割もあります。
そのため、次のような非常に多くのスキルが求められます。
このような多様なスキルセットが求められることが、社内SEの一番の特徴であり魅力的な側面と言えます。
業界による社内SEに求められるスキルの違い
業界によっても社内SEの求められるスキルは変わる。
金融業界ではセキュリティが非常に重要なため、セキュリティに関する専門的な知識が求められることが多い。
一方、製造業では生産ラインの効率化が重要なテーマであり、IoT(Internet of Things)や機器の制御システムに関する知識が必要な場合も。
社内SEのメリット、勝ち組と言われる理由:多様な業務と高収入が魅力

社内SEは人気の高い職種であり、収入も高いと言われていますが、その理由と社内SEメリットは何でしょうか?
平均年収が高い
社内SEは、一般的に平均年収が高い職種とされています。
専門的なスキルとビジネス知識が求められるため、その価値は高く評価される。
経験年数が増えるにつれて、その年収はさらに上昇する傾向にあります。
とは言え、給与は所属企業の水準になるため、「社内SE=勝ち組(高収入)」の式が成り立つのは、大企業の社内SEに限った話です。
中小企業の社内SEは、「ひとり情シス=ブラック(薄給)」というブラックな一面もあるため注意してください。
IT戦略・DXに多く携わることができる
社内SEは、企業のIT戦略やデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する上流工程に多く携わることが一般的。
これは、ビジネス戦略と密接に関わる非常に重要な部分であり、ITがビジネスの成功に直結します。
このような重要なプロジェクトに携わることができるのも、社内SEが魅力的な職種とされる理由の一つです。
経験できる仕事の種類が多い

大企業の社内SEでは特化型SEとなることもありますが、一般的に社内SEは、多種多様なプロジェクトや業務に携わる機会があります。
システム開発はもちろん、データ解析、セキュリティ対策、クラウドサービスの導入といった多角的な業務を経験することも。
このように多様な経験を積むことができるのは、SEとしてのキャリア形成において大きなメリットです。
顧客が自社であるため腰を据えて仕事ができる
システム開発系のSEがプロジェクトごとに異なるクライアント(企業)を相手するのに対し、社内SEの顧客は自社固定。
腰を据えて長期的な業務に取り組むことができる。
深い専門知識を要するプロジェクトや、時間をかけて成果を上げる業務改善など、一般的なSEはあまり経験できない業務に携わることができる。
このように社内SEには多くのメリットがあります。

高い年収、多様な業務に携わる機会、そして安定した環境での働きやすさが、社内SEが「勝ち組」とされる背景。
特に、IT戦略やDXといった企業にとって重要なプロジェクトに多く携われることは、社内SEの魅力と言えるでしょう。
社内SEのデメリット:逃げ道の少なさとスキルの偏り

勝ち組ともいわれる、社内SEですがデメリットも少なくありません。
社内SEを目指す場合は、これらのデメリットを理解しておくべきです。
転職が難しくなる可能性
社内SEの業務は多岐にわたりますが、自社専属のSEであることから、他の会社への転職は難し場合があります。
また、自社独自の専門分野に特化したSEの場合、他の業界や分野でそのスキルを活かせないことも。
ユーザが同じ社員のためクレームが多く、逃げ道がない
システム開発系、いわゆるSIerは外部のクライアントが主ですが、社内SEの場合、顧客(ユーザ)は自社の社員。
そのため、社員からのクレームや要望が直接的で遠慮が少ないといったケースも。
ユーザとの関係は会社を辞めるまで、定年まで続きます。
これは、社内SEのストレス要因の1位と言ってもよいでしょう。要注意です。
システム開発スキルが付きにくい

社内SEの多くは、プログラミングやシステム開発の作業を外部に委託することが多いです。
自ら手を動かして開発する機会が少なく、開発スキルや現場の経験を積みにくい。
大企業に新卒で社内SEとして入った場合、まともにプログラムを組めない状態で、プロジェクトリーダや、委託先の進捗管理をすることも。
通常、プログラミングやテストなどの下流工程から、要件定義・基本設計などの上流へと、キャリアを積むのが王道です。

しかし、社内SEはこういった、キャリアパスやスキルバランスがいびつになりがち。
システム開発スキルを伸ばせない場合、将来的に開発職への転職を考えている場合、大きなハンディキャップになる可能性も。
面倒な作業が多い
社内SEは、新しいシステムを導入する際の戦略立案や要件定義など、高度な業務に携わることができる。
一方、パソコンの更新や修理、ソフトウェアのインストール、ライセンス管理、費用請求など、日常的でルーチンな作業も少なくない。
これら、地味でスキルアップに繋がりにくい作業ですが、社内SEである以上、こうした業務にもしっかりと対応することが求められます。
社内SEには多くのメリットがありますが、それに伴うデメリットも無視できません。

特に、「逃げ道がない」という点や「開発スキルが付きにくい」という点は、キャリアの選択肢を狭める可能性に。
新卒でいきなり社内SEになるのではなく、SIerなどでシステム開発スキルと現場経験をしっかり身に付けた後、社内SEへの転職や異動が理想です。
社内SEに求められる必須スキル、役割とは:多角的なコミュニケーションと専門知識がカギ

ここまでで、社内SEのメリットとデメリットを解説してきました。
これらを理解したうえで、社内SEになりたい場合、なった場合に求められる主な役割について解説していきます。
ユーザの要件整理(ヒアリングと文書化)
社内SEの重要な役割として、ユーザ(社内)の要件をしっかりとヒアリングし、それを文書化することがあります。
基本的にユーザはシステムの専門家ではありません。
ユーザはシステム導入や改修について、なんとなくのイメージや要望は持っていますが、要件定義と言えるような文書化は苦手です。
システム開発を外部に委託するなら特に要件の明確化、文書化が重要。
ここでのミス、認識違いが後の開発や運用で大きなトラブルとなる可能性があるためです。
社内SEの一番の腕の見せ所と言っても過言ではありません。
部署間の調整
社内SEは、異なる部署が持つ要件や制約を理解し、予算の配分や、システム間調整など会社全体が動くように調整する役割も担います。
これには、プロジェクト管理スキルだけでなく、コミュニケーション能力も非常に重要。
社内SEはシステムスキルよりもこういった、ヒューマンスキル、調整能力の高い人が評価されることも多いです。

委託先とユーザ間の調整役

システム開発を外部に委託する場合、その委託先と社内ユーザとの間で調整を行う必要があります。
具体的には、IT用語や専門用語が飛び交う場合、それをユーザがわかる言葉で説明し、ユーザを理解させるスキルが求められる。
反対にユーザの要望を、ユーザの業務に詳しくない委託先に、システム的な観点で翻訳して伝える役割も。
また、委託先からの見積を精査することも求められます。
見積もり額がなぜこんなにも高いのか?と相談を受けることが多いです。

このような場合、ユーザ側が委託先に過剰な要求をしているのか、単に委託先がぼったくりにきているのかを見極める必要がある。
このように、ユーザ側とシステム側(委託先)の両方の立ち位置と観点を理解する必要があり、社内SEに高度がスキルが求められる一面です。
ユーザへのシステム導入・活用教育
システムが導入された後、その効果を最大限に引き出すためには、ユーザに対する教育が欠かせません。
導入されたもののユーザが使いこなせずに、導入効果が全く得られないシステムが非常に多い。
このようなことを避けるため、社内SEはシステムの使い方から活用方法まで、教育を行う役割も担うことも。
セキュリティ対策・クラウドサービスの診断
近年、多くの企業がクラウドサービスを活用しています。
社内SEは、ユーザが利用しているクラウドサービスが適切であるかを診断し、必要に応じて改善策を提案することも。
また、ユーザが利用しているソフトウェアや、PCやUSBメモリの使用方法など、セキュリティリスクに繋がるものがないか、監視するのも社内SEの役割です。
以上のように、社内SEに求められる役割はシステムと直接関係がないものも多数あります。

しかし、これらの役割は、他の業界やビジネスにも活かすことができるため、キャリアの幅を広げられるという側面も。
社内SEに転職するためには:新卒とキャリア採用での戦略

ここまで読んでいただき、社内SEに興味を持った方は、次の就職・転職戦略を参考にしてください。
新卒からの社内SEを目指す戦略
新卒から社内SEを目指すのは、キャリアパス、スキルのバランスという面で個人的にはおすすめしません。
それでも、新卒で社内SEを目指す場合、まずは関連する学部(IT系、理系)や専門学校で基本的なITスキルとビジネス知識を身につける必要があります。
インターンシップや実務経験を積むことで、実際の業務のイメージを掴むのも良いでしょう。
キャリア(中途・経験者)採用での社内SEへの転職戦略
すでに社会人経験があり、キャリア採用で社内SEを目指す場合、次のポイントが重要です。
上記の社内SE役割で述べたように、社内SEはITスキル以外の調整能力、コミュニケーションが求められる。
ITスキル以外でも高い能力を持っていること、経験していることをアピールしましょう。
転職エージェントの必要性・メリット
社内SEになるためには、転職エージェントを利用するのは必須。
一般的なSIerへの転職であれば、一般論が通用しますが、企業独特になりがちな社内SEの業務について、エージェントを利用せずに詳細を把握することは非常に難しいためです。
社内SEは新卒よりも、転職で目指すのがおすすめです。
自分のスキルとキャリアプランをしっかりと考え、必要なスキルを身につけることが重要。
転職エージェントを活用することで、通常知りえない企業の社内SEの実態を少しでも聞き出し、転職の失敗を避けましょう。

結論:社内SEとは「勝ち組」か?それともブラック?

この記事では、「社内SEは勝ち組か?必要なスキルと転職方法」というテーマで、社内SEについて詳しく解説してきました。
以下にその要点をまとめます。
社内SEの多様な役割
- 社内SEは、企業内でIT戦略やシステム開発を担当する重要なポジション。
- その仕事内容は多種多様であり、会社の規模や業種によっても大きく変わる。
社内SEのメリットとデメリット
- 平均年収が高い、多様な仕事に携われるなど、社内SEには多くのメリットがある。
- 一方で、逃げ道が少ない、開発スキルが付きにくいなどのデメリットも存在する。
必須スキルと役割
- 社内SEには、ユーザの要件ヒアリングからシステム教育まで、多岐にわたるスキルと役割が求められる。
- 特に部門間調整や、ヒューマンスキルが求められる場面が多い。
社内SEへの転職戦略
- 社内SEを目指すなら、キャリア採用で目指すのがおすすめ。
- 企業により社内SEの業務は大きく異なるため、転職エージェントを利用した情報収集が重要。
最後に

社内SEという職種は、多くのメリットを享受できる一方で、その責任もまた大きい。
この職種が「勝ち組」かどうかは一概には言えませんが、高いスキルと専門知識を持つことで、確かに多くの報酬と評価を受けることは可能。
しかし、その道を選ぶには相応の覚悟と準備が必要であり、転職を考える際にはターゲット企業の社内SEの業務内容を多く集め、計画を練ることが重要です。

以上が、社内SEに関する全体像とその転職に至るまでのポイントです。
この記事が、社内SEを目指す人の一助となれば幸いです。